ています。
東宝製作による約12年ぶりの日本版『ゴジラ』シリーズ最新作にして、
大ヒットアニメ「エヴァンゲリオン」の庵野秀明が脚本・総監督を務めた
『シン・ゴジラ』。
特撮ファンはもちろん、多くの「エヴァ」ファンからも注目を浴びる話題作に、
庵野総監督はどう立ち向かったのか。
数々の資料写真や庵野総監督を支えた盟友たちの証言を追いながら、
『シン・ゴジラ』の裏側を探っていきます。
『シン・ゴジラ』で要となるゴジラのデザインを担当したのが、造形家の
竹谷隆之だ。
卓越した造形力とデザインワークで国際的に高く評価されている竹谷は、
これまで数多くの映像作品に参加。『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』や
『巨神兵東京に現わる 劇場版』のマケット(雛型模型)などを手がけている。
そんな竹谷に『シン・ゴジラ』のオファーが舞い込んだのは、2014年の暮れ
だった。
「まず(監督・特技監督)樋口真嗣さんから電話があり、詳細はまだ言えない
けれど背びれのある怪獣のデザインをお願いしますと(笑)。
その後に、庵野さんと樋口さん、尾上克郎さんと打ち合わせをしました」
「前田真宏(ゴジラコンセプトデザイン)さんのコンセプトスケッチをもとに、
具体的なゴジラの形を図面ではなく立体物として完成させたいということで、
その時に庵野さんが持ってきたのが、初代ゴジラのフィギュア。
初代へのリスペクトにしたいということでしたが、単に形をなぞるのではなく、
初ゴジのいいところを吸収しながらデザインしてほしいということでした」(竹谷)
庵野総監督が提示した『シン・ゴジラ』のコンセプトは“完全生物”。地球に住む
あらゆる生き物たちで形成された、ピラミッドの頂点に位置する存在だ。
その生態に関するあらゆる要素は、全て庵野総監督による設定が出来上がっ
ていた。
「庵野さんが作る物には全て理由があるんです。警戒する必要がないから耳
はいらないとか。
ですからデザインもそんな法則に乗っ取っています。
皮膚の形状で参考にしたのはゴーヤ。庵野さんの“ただれて崩壊しかけたよう
な皮膚”という要望が、縦のラインの中にランダムにイボがあるゴーヤが近い
のかなと。
うちで植えているゴーヤを型取りしたものを見せたら『これこれ、こんな感じ』と
決まったんです(笑)。
偶然にできた初ゴジの着ぐるみのしわも生かしていますが、オマージュだけで
なくカメラがあおった時にたるみがどう見えるかも考慮しているようでした」(竹谷)
『シン・ゴジラ』の怪獣描写は全てCG。国内の『ゴジラ』シリーズでは初となる、
フルCGで制作された。
どのように撮影するかは、デザインをする上で特に意識していなかったそうだが、
中に人が入れないシルエットにしたいという意向は打合せの段階からあった
という。
「どう撮るかの前に、まずゴジラはどうあるべきか意見を出し合って形にしていっ
たんです。
ただ足の形状をどうするかの話の時、人が入れない形にしたいという要望は
ありました。
最初のハリウッド版『GODZILLA』(1998)はイグアナで、
最近の『GODZILLA ゴジラ』(2014)はグリズリーのようだったりと、
ハリウッド版では生物のマナーにのっとってデザインされていました。
でも『シン・ゴジラ』では生物として突き抜けた存在で、それをデザインにも生かし
た方が日本らしいんじゃないかということですね」(竹谷)
4月にゴジラのビジュアルが公開されたとき、注目を浴びたのがカラーリング。
黒いボディーには、まるでまだら模様のように赤い色が置かれていた。
「赤いゴジラ」は流れる溶岩を参考にデザインされた。
「打合せをしていく過程で、ゴジラの内部が光っていて、それが溝の隙間から
見えるような感じにしようということになりました。
庵野さんによると、痛々しい血のイメージとマグマのイメージ。
火山から流れる溶岩は、表面の部分は空気に触れて黒く固まり、
下の赤い部分が溝の内側から光っているように見えますよね。
あの感じで、ということでした。
庵野さんは目にも強いこだわりを持っていて、『人間の眼でいこう』ということ
になってから白目と黒目の比率をとても慎重に吟味されていました。生き物の
中で人の目がいちばん恐いと」(竹谷)
ボディーの各パーツから全身のシルエットまで、細部にわたって庵野総監督の
こだわりが反映されたシン・ゴジラのデザイン。
竹谷氏は庵野総監督による映画に対する取り組みを、物作りの正しい姿勢
であり、映画監督としてあるべき姿だと振り返る。
「実際に仕事をしてみて、『シン・ゴジラ』は庵野さんじゃないと出来なかったん
だろうと思いました。
庵野さんは大枠の部分はもちろん細かい所にまで、とても強いこだわりを持
っています。
質問したことには必ず説明してくれるし、そこは適当にやっていいですから、
とは一言も言わない。
それは物を作る人間としては当たり前で、特に監督は我慢する仕事じゃあり
ません。
表現したいモノを、できるだけ理想の形に近づけるのが仕事なんだと思います。
庵野さんはそれを貫くことができるんですね、きっと。そのひとつひとつが納得
・共感できるので、僕自身とても楽しみながら仕事をさせてもらえました」(竹谷)
<引用> シネマトゥデイhttp://www.cinematoday.jp/page/A0005053